8月21日(木)

 


 明け方は雨が降っていた。これでは釣りにも行けないし、テントから出るにも面倒なので、遅くに起きたあとはテントの中で過ごした。

 昨日、坊主ライダーから借りた文庫本があるのだ。ボクは本を読むのはかなり好きなほうだが、今までキャンプ地で読んだことはなかった。外は小雨が降る中、テントの中でごろごろしながら本を読んだ。

 昼近くなるとすっかり雨は上がって、晴れてきた。それでも読みつづけた。久々の読書が楽しかったのだ。

 昼頃、ふと人の気配を感じたと思ったら、坊主ライダーと女性ライダーがボクのテント前まで来ていた。女性ライダーが出発するというのだ。雨だから滞在しようかと思っていたら止んだので急いで片付けたそうな。ボクは寝起き状態で本を読んでいて情けない姿だったが、別れのあいさつをした。

 その時、2人にボクのテントを見せた。テントの中に大きなエアベッドが入っている。床面の8割をベッドが占めている様子を見て、「これ反則ですよ!」と言われた。荷物が少ないバイク乗りにとってエアベッドなんてまったく別世界の道具だった。

 ドルンドゥルルンとカッコいい音を響かせながら、さっそうと女性ライダーはキャンプ地から出ていった。ボクも坊主ライダーも手を振ったが、さぞ呆けた顔をしていたと思う。

 彼女が出て行って、またボクと坊主ライダーだけになった。静かな草地は陽を浴びて、ゆっくりとした時間が流れていた。

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今日は朝から読書の日。

ノーマン・マクリーン「マクリーンの川」、花村萬月「真夜中の犬」、新田次郎「強力伝・孤島」。

いっきに3冊読んで疲れた。
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暑いなと思って気づくと晴れていた。

テントの中からの眺め。
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午後、いつのまにか隣りに家族連れがテントを設営していた。

これで2人だけじゃなくなった。でも家族連れは邪魔しないようにした。

【本日の釣果】
釣行せず


 朝から夕方までの間に文庫本3冊をいっきに読破して、目と頭が疲れてしまった。隣りにやってきた家族連れは静かだったし、坊主ライダーは相変わらず三線を引いたりゴロゴロしたりしてボクのほうには近づかなかったし、テントの中だけの世界というか小説の世界にどっぷり移入することができた。

 キャンプ地で本を読むのも楽しいと思った。ただ普通なら、釣りに行こうとか、どこかに出かけようとか、食事を作ろうとか、何かとやることはあるのだが、1日つぶすつもりなら読書三昧の日もいいなと。

 夕方、自転車に乗った3人組が現れた。様子を見ていると、炊事場近くにテントを設営したり、炊事場で食事の準備をしていた。よく見ると学生風の若い女の子たちだった。そのうち自転車に乗った娘たちは増え、7〜8人になった。どうもサークルか部活動のようだった。

 坊主ライダーに話そうと思ったらいない。またいつものように夕方の買い出しを名目にしたスーパー巡りなのだろう。そこで一人で米を研ぎにいくついでに、炊事場にいる娘たちに話しかけた。

 大学の自転車部でツーリング合宿していて、今夜はここで泊まるという。話しかけたのはいいが、人数が多いのでまともなコミュニケーションができない。会話のキャッチボールができないなぁ〜どうしたもんかな〜、と思っていると坊主ライダーのバイクが帰って来たのが見えた。

 さっそく彼に話しかけると、やはりスーパーに行っていて、生のイカが安かったからと言ってイカをさばき始めた。ハラを出して皮をむいて、非常に手際が良かった。さすが、鮮魚コーナー担当。

 そのまま東屋に行って、坊主ライダーと夕食にした。ボクは米を炊いて、玉ねぎとコンビーフの炒め物。彼はイカの刺身と、昨夜の残りのダシでイカと大根の煮物。彼の煮物の味付けは美味く、焼酎によく合った。

 坊主ライダー曰く、炊事場で見かけたボクは途方にくれたように立っていたそうな。女子学生に相手にしてもらえず困っているオヤジ、に映ったわけだが、事実はまあそんな感じだった。下心からではなく単なる好奇心から、ボクはどうしても彼女らと話がしたかった。どういういきさつでここに泊まることになったかが知りたかったのだ。

 ほど良く酔ったところで、彼に提案をした。ボクが女子学生たちに話しをつけてくるから、三線で演奏して唄ってくれ、と。彼は喜んで快諾してくれた。

 酔ったいきおいにまかせ、女子学生たちの夕げの輪にずかずかと入り、「面白いおじさんが演奏と歌を唄ってくれるから、聴いてみるかい?」「旅の余興だと思って、どう?」。はじめは驚いてしばらく顔を見合わせていた娘たちだったが、なんとなく乗り気になったようで「お願いします」と言われた。

 その後は、車座になった娘たち前で坊主ライダーの演奏会になった。沖縄系の割とメジャーな曲を選んで演奏してくれた。ボクは彼の隣で焼酎の入ったコップを持って、司会進行を務めた。

 彼女たちは東京の大学生で、青森を出て一関までのツーリング。薪と飯ごうでご飯を炊き、炭でカレーを作り、スーパーで買った野菜や果物を食べていた。僕らはスイカをご馳走になった。

 普通、チャリダーは荷物が限定されるからもっと簡単に食事を済ませるものだが、彼女たちはあえて不便さを楽しんでいるようだった。合宿という名目上、キャンプ地はすべて予約してスケジュール通りに泊まっているという。なんだが可哀相だが、集団行動だから仕方ない。男子部員も近くを走っていて、後日合流するらしい。

 東京の八王子周辺にある大学、ということで、ボクが八王子にある大学で働いているということで少し盛り上がった。あえて具体的な大学名まで聞かなかったし、ボクも言わなかった。話しが沈静化したところで適当に切り上げて、別れのあいさつをした。

 ボクと坊主ライダーは東屋に戻り、またしんみりと語り続けた。ちびちびと飲みながら。楽しい夜だった。

 最後に、坊主ライダーが言った。「楽しい数日でしたが、そろそろ出発します」と。ボクもそろそろ出発してもいいかなと思った。週末で道路が混む前に東京に帰ろう。この週末は有名な大曲の花火があるのだ。その前に出発するのが得策のような気がしていた。


【翌日へ】

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